IT企業が抱える「見えにくい」資金繰り問題
IT業界は成長産業であり、高い粗利率を誇る業界です。しかし、特に受託開発やSES(システムエンジニアリングサービス)を主力とするIT企業は、意外にも資金繰りに苦労することがあります。
「売上は立っているのに、手元にお金がない」──この状況はIT企業に特に多く見られます。
開発期間中の売上ゼロ問題
受託開発の場合、プロジェクトの完了後に一括で請求するケースが多くあります。開発期間が3ヶ月〜6ヶ月に及ぶプロジェクトでは、その間の売上はゼロ(または中間検収による一部入金のみ)です。
一方、エンジニアの給与は毎月発生します。月給40万円のエンジニアが5名のチームで6ヶ月の開発プロジェクトに従事すると、人件費だけで1,200万円が先行支出されます。
SES企業の「給与先行支払い」構造
SES事業では、エンジニアをクライアント企業に常駐させ、月額で報酬を受け取ります。しかし、請求から入金までのサイトは30日〜60日が一般的です。
- エンジニアへの給与: 当月25日〜月末に支払い
- クライアントへの請求: 月末締め
- クライアントからの入金: 翌月末〜翌々月末
エンジニアの人数が増えるほど、この「給与先行・入金後追い」のギャップは拡大します。エンジニア10名体制で、1人あたりの月額報酬が60万円、支払いサイトが60日の場合、常に1,200万円の立替えが発生している計算になります。
急な増員要請への対応コスト
クライアントから「来月から3名増員してほしい」と要請された場合、新たに採用するエンジニアの初月給与は先払いになります。成長のチャンスであると同時に、資金繰りの圧迫要因にもなります。
外注費の先払い
受託開発で一部の工程を外注する場合、外注先への支払いは月末〜翌月末が一般的です。クライアントからの入金より先に外注費の支払いが発生し、キャッシュフローにギャップが生じます。
IT企業にファクタリングが適している3つの理由
理由1: 売掛先が大手企業であることが多い
IT受託開発やSESのクライアントは、大手企業や上場企業であることが多いです。ファクタリングの審査では売掛先の信用力が重視されるため(詳しくは「ファクタリングの審査基準とは?通過率を上げる7つのポイント」を参照)、クライアントが大手であるほど審査に通りやすく、手数料も低くなる傾向があります。
理由2: 請求書が明確で審査しやすい
IT業界の取引では、契約書・発注書・請求書が整備されていることが一般的です。ファクタリングの審査で求められる書類がすでに揃っている場合が多く、申込みから入金までがスムーズです。
理由3: 高い粗利率でコストを吸収しやすい
IT業界の粗利率は30%〜50%程度と、他の業界に比べて高い傾向があります。ファクタリングの手数料(2%〜18%)を支払っても、利益が残りやすい構造です。ただし、これは「手数料を気にしなくてよい」という意味ではありません。
IT企業でのファクタリング活用シナリオ
シナリオ1: 受託開発の納品後、入金までのつなぎ
3ヶ月の開発プロジェクトが完了し、500万円の請求書を発行。しかし入金は翌月末(30日後)。その間のエンジニアの給与と次のプロジェクトの準備費用が必要な場合、この売掛金をファクタリングで現金化します。
シナリオ2: SES事業の拡大時の運転資金確保
SESのエンジニアを5名から10名に増員する際、増員分の給与は先行支出されます。既存の売掛金をファクタリングで現金化して、増員時の資金ギャップを埋めます。
シナリオ3: 外注費の支払い
大型プロジェクトでデザインやインフラ構築を外注した場合、外注先への支払い期限がクライアントからの入金よりも先に来ることがあります。クライアントへの売掛金をファクタリングで現金化して、外注費に充てます。
シナリオ4: 銀行融資の審査待ち期間のつなぎ
事業拡大のために銀行融資を申し込んでいるが、審査に2〜4週間かかる。その間に支払い期限が来る人件費・外注費をカバーするため、ファクタリングでつなぎ資金を確保します。
IT企業がファクタリングを利用する際のポイント
プロジェクト単位で利用を判断する
全ての売掛金をファクタリングに出す必要はありません。「このプロジェクトの入金サイトが特に長い」「この月だけ支出が集中する」など、ピンポイントで利用するのがコスト効率の良い使い方です。
手数料をプロジェクトの粗利から差し引いて考える
たとえば、500万円のプロジェクトで粗利率40%(粗利200万円)の場合、ファクタリング手数料10%(50万円)を差し引いても150万円の粗利が残ります。しかし、粗利率が15%のプロジェクトでは赤字になるリスクがあります。プロジェクトごとに採算を検討しましょう。
2社間ファクタリングでクライアントとの関係を維持する
IT業界では、ファクタリングの利用をクライアントに知られたくないというニーズが強いです。2社間ファクタリングであれば、クライアントに通知されることなく利用できます(その分、手数料は高くなります)。両方式の違いは「2社間と3社間ファクタリングの違い|どちらを選ぶべき?」で比較しています。
契約書の「債権譲渡禁止条項」を確認する
IT業界の契約書には、売掛金の譲渡を禁止する条項が含まれていることがあります。2020年4月の民法改正以降、このような条項があっても売掛金の譲渡自体は法的に有効ですが、クライアントとのトラブルを避けるため、事前にファクタリング会社に相談しておきましょう。
IT企業の資金繰り改善に向けた根本的な対策
ファクタリングは即効性のある解決策ですが、以下の根本的な対策も並行して進めましょう。
マイルストーン払いの導入
受託開発では、「要件定義完了時30%・設計完了時30%・納品時40%」のように、マイルストーンごとに中間請求する契約に切り替えることで、開発期間中のキャッシュフローを大幅に改善できます。
支払いサイトの交渉
月末締め翌々月末払い(60日サイト)を月末締め翌月末払い(30日サイト)に交渉するだけで、立替え資金が半分になります。特に継続取引の場合、実績をもとに交渉の余地があります。
自社サービス(ストック型売上)の構築
受託開発やSESはフロー型の売上であり、常に新しい案件が必要です。自社のSaaSやサブスクリプションサービスを構築して、毎月安定して入金されるストック型の売上を作ることが、資金繰りの根本的な安定化につながります。
まとめ
IT受託開発・SES企業は、「売上はあるのに手元にお金がない」という構造的な資金繰り課題を抱えがちです。エンジニアの給与・外注費は先行支出される一方、クライアントからの入金は30日〜60日後になるため、成長するほどキャッシュフローのギャップが拡大します。
ファクタリングの基本的な仕組みは「ファクタリングとは?初心者向け完全ガイド」で解説しています。ファクタリングは、大手企業が売掛先であるIT業界と特に相性がよく、審査に通りやすい傾向があります。フリーランスエンジニアの方は「フリーランスエンジニアの資金繰り|ファクタリングで入金サイクルを改善」も参考になります。経済産業省もIT産業の振興と資金繰り支援に取り組んでいます。プロジェクト単位でピンポイントに利用し、並行してマイルストーン払いの導入や支払いサイトの交渉を進めるのが、IT企業の資金繰り改善の最適なアプローチです。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な手数料やサービス内容は各ファクタリング会社にお問い合わせください。
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